2009年10月アーカイブ

ダイブ.JPG 「アルビン号の深海探検3D」は、全編実写です。冒頭の浅い海のシーンをCGだと思った方も多いようですが、実際に、ウッズホール海洋研究所のダイバーが、カリブ海ヴァージン諸島のセント・トーマス島の海に潜って撮ったものです。通常のアクアラング潜水ですが、かなり深い所で撮ったようです。彼らの潜水技術は、話を聞いているだけでかなりの水準です。

 さて、映画の見方ですが、立体の感じ方は個人差があるようです。左右の目から入ってきたずれた像を脳が合成して立体感を作り出します。従って、人によっては、疲労感を感じることもあります。

 このため、できるだけ、感じ方の厳しい「飛び出し」を抑えて、奥行き感が得られるよう編集しています。この映画では、全編実写のため、海中のほとんどの場面でマリンスノーが降っています。光に反射して美しいのですが、否応無く、カメラのレンズに近いところにも降ってきます。この近いマリンスノーばかりを見ていると、基本的には問題が無いとはいえ、疲労感を感じるかも知れません。なるべく、奥に写っているものを観た方が、自然な立体感が得られると思います。

  透明感のある美しい深海の映像をお楽しみください!

 土曜夕方5時、FM放送のJ-WAVEの番組「東京REMIX族」に「アルビン号・・」が取り上げられました。この番組は、山田五郎さんとしょこたん(中川翔子さん)が最新の話題を、ディープに取り上げるもの。結構、オジサン方にも人気がある。時々、深海を取り上げるが、2人の博識には脱帽する。24日の番組内容は、以下URLでご覧下さい。

http://www.j-wave.co.jp/blog/tokyoremix/archives/2009/10/post_365.html

 映画「アルビン号の深海探検3D」は、似合わないので、大宣伝はしていませんが、こうした関心で取り上げていただくと大感激です。ありがとう御座いました。

 アルビン号は1964年に建造され、それから45年、半世紀近くも経っている。もう、とっくに退役していてもおかしくない。実は、何度も延命措置が施されてきた。3年から5年に一度は、全面的なオーバーホールが行われている。そのたびに部品が交換されたり、新たな機器が搭載されたりして、今やビス1本たりと、建造当初のものは無い。最も大きな改変は、1972-73年、乗員たちが入る耐圧球が鋼鉄製からチタン合金製に交換され、それまでの2400mの潜航深度がからが4500mに向上したことだ。最近の大規模なオーバーホールは、2001年。新たな動力制御装置とコンピューターシステムが搭載された。

新型アルビン.JPG それにしても、日本の「深海6500」などと比較すると、性能面の立ち遅れのそしりは免れない。このため、現在、次世代アルビン号の建造計画が進められている。2008年からは、人が乗り込む場所であるチタン合金製の新型耐圧球の製造が進められている。新しい耐圧球によって、アルビンの潜航能力は、「しんかい」と同じになる。また、現在の耐圧球は直径2メートル足らずだが、新型は一回り大きい2m15cmなる。

 次世代のアルビン号の大きな変更点は、のぞき窓が現在の3ヵ所から5ヵ所になることだ。正面の窓は、専らパイロットが操縦のために使う窓で、研究者はサイドの窓から外を覗くしかなかった。次世代アルビン号では、窓のうち3つが正面を向いている。研究者は、アルビン号の進路をパイロットに指示できるだけでなく、照明がきちっとあたるベストスポットを観察できることになる。パイロットは、自分だけ許された独占的な視界の特権を失うことになる。

 新しい耐圧球は、とりあえず新しいバッテリーやライトとともに、現在のアルビン号のアップグレードに使われ、次世代アルビン号の船体の完成を待つことになる。新アルビン号が登場するのは、早くても2015年になるようだ。しかし、実現は、ひたすら50億円の資金調達にかかっている。

 アルビン号は不恰好だ。流線型に形が整っているのは、実は船体後部。私は、かなり長い間、この船尾が船首だと思っていた。本当の船首部分には、見てくれも構わず、海底での採取物をのせるサンプルバスケットやマニュピレーター(ロボットアーム)が設置されている。

 上図は、次世代アルビンの建造委員会が発表した資料である。どうも不恰好さは、踏襲されるようだ。なぜか、ホッとする。

 旧アルビン号の未来は、博物館入りが有力だ。

 アルビン号には、パイロットが1人しか乗っていない。残りの2人は研究者だ。日本が世界一の性能を誇る深海探査船「しんかい6500」は、パイロットが2人、研究者は1人。アルビン号のパイロットには大きな責任がのしかかっている。

 安全なのだろうか?通常、アルビン号は船体の下に、使い捨ての鉄鋼製のバラストを積んで沈下し、調査が終われば、バラストを捨てて浮上する。浮上できない場合、72時間は酸素を供給できる救命機能があるが、70時間浮上できない時点で、パイロットと研究者が入っているチタン合金製の耐圧球だけを、船体から切り離し、浮上できるようになっている。

アルビン.JPG 海底洞窟にはまったらどうなるのか?そういうことが実際にあったが、そのときは、スクリューで前進後退を繰り返し、何とか洞窟を抜け出したそうだ。パイロットの悪夢は、地殻変動で、近くの岩盤が崩れ、埋まった光景だそうだ。数千mの暗闇の深海底、確かにゾッとする。

 東太平洋、ナインノースで起きた大規模溶岩流は、周辺のチムニーをことごとくなぎ倒し、海に沿って点在した熱水噴出孔周辺の「深海の楽園」に壊滅的な打撃を与えた。かつてここにあった、チューブワームの群生も消えた。そして、そこに集まってきていた生き物のコロニーも消滅したものと見られる。

 地殻変動の恩恵を受けて繁栄をとげた深海の生き物たちは、同じ地殻変動の力で、姿を消した。これが、自然のルール、深海の掟なのだ。

small_tube.JPG しかし、地殻活動は、別の場所で新たに熱水を噴き出す。そこには、新たな命が芽吹き始める。その姿は、映画をご覧になってください。感動的です。

 覗き窓は、直径10センチ余、厚さ10センチ位の 窓.jpgアクリル製。80度の熱で溶けてしまうはずだ。400度近い熱水孔の近くまで行って大丈夫なのだろうか?ご心配は無用。熱水が噴き出すあたりの海水温は、2~3度程度、熱水も10~20cmていど噴出孔から離れると、周りの海水とほとんど同じ水温になってしまう。熱水が急激に上昇する真上でも、1メートルくらい距離を置けば、安全だそうだ。 

 実は、もっと危険なことがある。海水を出し入れしてアルビン号の浮力を調整するバラストタンクに高濃度の硫化水素などが混じった海水を吸い込むと、バラスとタンクが腐食する恐れがある。パイロットが気を使う点らしい。

溶岩床.JPG 上の写真は、溶岩流が固まった生々しい跡。枕状溶岩の一部である。表面が光っており、真新しさをうかがわせる。メキシコ沖、東太平洋海膨(rise)、通称9゜North(ナインノーズ)で2005年から2006年にかけて、海底火山の爆発=大規模な地殻変動→大規模溶岩流があった。この地殻変動が、本映画の「深海の楽園」の生と死、再生を決定づける自然現象である。

 この海域は、ウッズホール海洋研究所などが1990年代から長期間にわたって、定点観測をしていたところ。2003年には、1ダースもの地震計が、海底に設置されたばかりだった。まさにここで、地殻変動がおき、海底火山が噴火、大規模な溶岩流が海底に流れ出したのだ。溶岩は18キロにわたって流れ、15平方キロメートルを埋め尽くした。東京なら渋谷区、福岡市の中央区をすべて飲み込むような溶岩流だった。厚さは身の丈ほど、流量は2千万立方メートルに達した。

 この地殻変動が、海底に何をもたらしたのか?

yamamoto_tri.JPG

 山本さんのファンが多いので・・・・ナレーションの一部を公式サイトに上げましたmusic
公式サイトの「キャスト・スタッフ」から「ナレーション」のページに移り、再生ボタンをクリックして下さい。短いですが、雰囲気だけでも、お受け取りくださいwink

 映画のサウンド・トラックnoteも聞くことができます。お楽しみください。

 建造から4年目、1968年10月のこと。潜航準備のためアルビン号を海上でつるしていたところ、突然、ケーブルが切断、乗員3人を乗せたまま、海に放り出されてしまった。乗員はかろうじて脱出したが、ハッチが開いたままだったから、当然、沈んだ。アルビン号は1535mの海底に鎮座してしまった。それから11ヶ月、建造されたばかりのアルミ製の深海潜水艇アルミノートが、長いケーブルをアルビンにくくりつけ、アルビン号は再び、日の目を見た。その間11ヶ月。アルビン号の1回の潜航時間としては、もちろん最長だ!
 その後、アルビン号は、ボルト1本まで交換され、建造時とは全く違う船体に生まれ変わったといっていいほどの改修が行われた。

mekajiki.JPG  この1年前の1967年、600mの海中で、メカジキが,獲物と間違えたかアルビン号に突進してきた。メカジキは、特徴である剣のような吻(ふん)を、あろうことか、船体のつなぎ目に突き刺して、動けなくなってしまった。アルビン号は、不運なメカジキとともに、浮上した。
 その後、このメカジキが、ステーキになったかどうかは、記録がない。

(Photo:Woods Hole Oceanographic Institution)

  映画冒頭のタイトルバックをはじめ、深海底の映像の各所に、煙がたなびく場面が出てくる。海中に煙が流れる筈は無い。

 正体は、海底火山から出る熱水だ。熱水には硫化水素やメタン、二酸化炭素などの気体だけでなく、鉄、銅、亜鉛などの金属がが溶け込んでいる。これが、水温2、3度の海水触れて固まって、粒子になり、煙のように見えるというわけだ。煙の色は、成分や噴出する勢いによって、黒になったり、白になったり、透明だったりする。

チムニー.JPG この「煙」が堆積すると「煙突」になる。英語では「チムニー」、あるいはズバリ、「スモーカー」と呼ばれる。黒煙を吐く「煙突」は、ブラックスモーカーである。白い煙は、ホワイトスモーカーだ。「煙突」は、銅や亜鉛を含む硫化物からできている。1日に、30センチほど高くなるものもある。大きいものは数十メートルあるが、大抵は、大きくなると、自分の重さで壊れてしまうほどもろい。溶岩流が起きれば、ひとたまりも無く崩れてしまう。

doverl.jpg 左の写真は、シンディ・リー・バン・ドーバー (Cindy Lee Van Dover ) さん、アルビン号の歴代パイロット(40人足らず)の中で、ただ一人の女性パイロット。面識は、もちろん無いが、ブログに写真を使用したいと彼女にメールを送ったら、快く、OKして、この写真を送ってきてくれた。

 アルビン号のパイロットになる厳しさは、前に書いた。ヴァンドーバー博士は、現在、ノースカロライナ州のデューク大学海洋研究所の部長を務めている。彼女は幼い頃から、深海に憧れ、深海生物学者を目指して、憧れのウッズホールに職を得たあと、一念発起してパイロットを目指す。

 深海パイロットは、男の世界、アメリカでも、様々な障害があったようだ。彼女の動機は、パイロットになれば、いつも潜って深海を観察できるというもの。パイロットが研究に手を出してならないことは、不文律としてあったようだが・・・。

 彼女は、1990年から91年暮れまでの1年半に48回の潜航をして引退。深海のエビの背中に、光に反応する器官があるという発見をしたことで知られる。深海で熱水噴出孔があれば、そこから発せられる赤外線にエビが反応できるというわけだ。

 小柄なガンバリ屋。伝説の女性パイロット、深海海洋学者である。現在、次世代アルビン号の建設委員会の座長も勤めている。彼女の著作「深海の庭園」(草思社、西田美緒子訳、原題 "The Octopus's Garden" = The Beatles が、同名の曲を歌っている。しゃれてますね!)は、一読の価値あり。これを読むと、深海にはまってしまう。本は、アマゾンにストックがあります。

 アルビン号が広く一般に名前が知られるようになったのは、1966年1月、スペイン上空で、米のB-52戦略爆撃機H-bomb.jpgと空中給油機が衝突、水爆4発のうち3発は地上に落下して、直ちに発見されたが、残る1発が地中海に落下した事件である。米政府は、全力 で、海中に沈んだ水爆の回収に当たった。現場海域には、米海軍の艦艇約30隻が投入された。この中には、ウッズホール海洋研のアルビン号も含まれていた。アルビン号は、当時最新鋭だったばかりでなく、運航は研究所だったが、所属は米海軍だった。米では、軍学協力はあまり問題にならない。深刻な海洋汚染の恐れもあったから、軍も学も関係ない。

 3月2日、アルビン号は770mの海底で、水爆を発見、仲間の深海潜水艇アルミノートの協力で、目印のトランスポンダーを取り付け、沈没位置を固定した。これを元に、4月7日、無人の潜水機が、ようやく回収に成功した。上の写真は、回収された水爆である。(米海軍・パブリックドメインなので、掲載させていただいた。)

   アルビン号の活躍として、最もよく知られるのは、1912年、北大西洋を処女航海中、氷山に激突、沈没した豪華客船タイタニック号の発見だろう。発見と言っても、1985年9月、ウッズホール海洋研のロバートバラード博士が率いる調査チームが、精巧な音響探査装置を使って水深3650mの海底に沈んでいたタイタニック号らしきエコーを確認していた。翌1986年7月、この地点に、バラード博士も搭乗したアルビン号が潜った。ソナーの故障や電池の消耗に悩まされながら、たった1回の潜航で、とうとう、タイタニック号を発見したのだ。  

 

プロフィール

 
自称「国際紛争記者」。イランイラク戦争に始まり、ユーゴスラビア紛争・サラエボ包囲網、湾岸戦争と、臨んだ現場は、枚挙に暇がない。現役記者引退後は、ネット事業に取り組んだが、なぜか、今、3Dにはまっている。
アルビン号の深海探検 公式ホームページ