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 アルビン号が一定の深度まで潜ると、どこにカメラを向けても、雪のような白い物体が海底に向かって降り注いでいるのが見えます。これが「マリンスノー」、海に降る雪です。雪の正体はプランクトンや魚の排泄物や死骸。合成映像ではないのかと指摘を受けたことがありますが、映画のうたい文句通り、前編実写です。

日本の研究者が名付け親で、世界の共通語になりました。ロマンティックな言葉ですね。

alvin_exhibit 05.JPGのサムネール画像

 

  映画では、冒頭のタイトルの背景など、至る所に出てきます。余り近いところのマリンスノーばかり見ていると、目に疲労感が出てくるのでご注意を。私たちとしては、マリンスノーよりもその奥にあるものを見てもらいたい時もあるのです。上の写真は、海底付近で、アルビン号がスクリューを逆回転したため、海底に堆積したマリンスノーが舞い上がってしまったものです。

 

上映に先立って、7中旬科学館3階の科学館展示室シアターで準備作業が行われ、行ってきました。科学館には、3D上映設備がないため、移動式の上映セット(シルバースクリーン、プロジェクター等)が設置されました。劇場用の上映時間は40分ですが、科学館用は半分の22分に短縮されました。

 

科学館.jpg 映画は来年4月にかけて、夏休み、冬休み、春休みを中心に上映。今回は719日から95日まで、13回上映されます。どうぞ、お出かけください。

 地球上に生命が誕生して30数億年。映画のエンディングに、「地球上に生命が誕生したのは、高い濃度の硫化水素を含む熱水が噴き出す深海だったという説もある。」という遠慮勝ちなナレーションを置いた。その説は、映画後半の主役「チューブワーム」に棲みつくバクテリアが根拠だ。このバクテリアが、硫化水素をエネルギー源にする生命の仕組みを確立したからだ。木星の衛星にも同じような環境がある。木星の16個ある衛星のうち「エウロパ」の分厚い氷の下に水が存在し、バクテリアに似た生物が存在する可能性があるという。映画では、遠慮がちにコメントしたが、研究の進展が待たれる「海は生命の揺りかご」と言われるが、単なる文学的な表現ではなく、科学的に裏付けられた表現になりつつあるのですね。

深海のアルビン号.JPG
 深海のアルビン号の概観はどうやって撮ったのか?よく聞かれる質問です。人間が外に出て撮ったに違いないという人がいましたが、仮に深さ3千メートルとすると、1平方センチ当たり300kgの水圧が、四方八方からかかっているので、それに耐えうる潜水具すらなく、不可能です。
 実は、無人の潜水ロボットで撮っているのです。アルビン号とは有線でつながれており、リモートコントロールで操作されています。本来は、アルビン号が潜り込めないような狭い場所に入って、研究対象を撮るのが目的のロボットです。深海の洞窟ばかりではなく、タイタニック号のような沈没船の船内撮影などにも活躍します。

 アルビン号本体にも前部に、カメラが搭載されており、船内から操作して、目的によって2Dで撮ったり、3Dで撮ったりします。映画では、できるだけ、最初から3Dで撮った映像を多用しました。

ウロコムシ.JPG 深海のオアシスの場面で出てくるきれいなピンク色をしたムカデのような生き物。熱水噴出孔のチューブワームの周辺で見られるウロコムシ(=Scale Worm)の仲間のようです。この生き物についても、映画の中では、紹介しませんでした。見ているだけで、体がかゆくなってくるという人もいます。

 熱水噴出孔のウロコムシは、二枚貝などに共生し、成長すると、単独で行動。熱水に住みつくバクテリアなどをエサにしているようです。
 

kasagai.JPG  映画をご覧になった方は、チューブワームの管に張り付いた貝のような生き物が気になったと思います。説明はしませんでしたが、カサガイの仲間のようです。2枚貝に見えますが、巻貝です。フネカサガイという、1センチにも満たない長さの小さな貝です。ウッズホールで、様々な映像を試写した際、いたるところに写っているので、これが、「アルビンガイ」と思っていたのですが、全く違う貝でした。

 この貝自体は、熱水に含まれる硫化水素からエネルギーをとっているわけではなく、熱水の周りにいるバクテリアやチューブワームそのものをエサにしている生き物です。

コシオリエビ.JPG 深海のコシオリエビは、真っ白だ。目も退化している。では、どこで 外からの刺激に反応するのか?長いひげとは別に、背中に、外界の刺激を感知する器官(受容器)がある。赤外線を感知しているのだ。これを見つけたのが、アルビン号の歴代パイロットの中で、ただ一人の女性シンディー・ヴァン・ドーバー博士。このブログでも、既に言及している。

深海のコシオリエビの食べ物は、バクテリア。バクテリアを取るためには、バクテリアが密生している熱水噴出孔を見つけなければならない。熱水からは赤外線が放射されている。その赤外線を感知して、コシオリエビは、熱水に近づいて行くらしい。また、コシオリエビは、お腹の繊毛にバクテリアを飼っている。そのバクテリアを食すというわけだ。

ダイブ.JPG 「アルビン号の深海探検3D」は、全編実写です。冒頭の浅い海のシーンをCGだと思った方も多いようですが、実際に、ウッズホール海洋研究所のダイバーが、カリブ海ヴァージン諸島のセント・トーマス島の海に潜って撮ったものです。通常のアクアラング潜水ですが、かなり深い所で撮ったようです。彼らの潜水技術は、話を聞いているだけでかなりの水準です。

 さて、映画の見方ですが、立体の感じ方は個人差があるようです。左右の目から入ってきたずれた像を脳が合成して立体感を作り出します。従って、人によっては、疲労感を感じることもあります。

 このため、できるだけ、感じ方の厳しい「飛び出し」を抑えて、奥行き感が得られるよう編集しています。この映画では、全編実写のため、海中のほとんどの場面でマリンスノーが降っています。光に反射して美しいのですが、否応無く、カメラのレンズに近いところにも降ってきます。この近いマリンスノーばかりを見ていると、基本的には問題が無いとはいえ、疲労感を感じるかも知れません。なるべく、奥に写っているものを観た方が、自然な立体感が得られると思います。

  透明感のある美しい深海の映像をお楽しみください!

 東太平洋、ナインノースで起きた大規模溶岩流は、周辺のチムニーをことごとくなぎ倒し、海に沿って点在した熱水噴出孔周辺の「深海の楽園」に壊滅的な打撃を与えた。かつてここにあった、チューブワームの群生も消えた。そして、そこに集まってきていた生き物のコロニーも消滅したものと見られる。

 地殻変動の恩恵を受けて繁栄をとげた深海の生き物たちは、同じ地殻変動の力で、姿を消した。これが、自然のルール、深海の掟なのだ。

small_tube.JPG しかし、地殻活動は、別の場所で新たに熱水を噴き出す。そこには、新たな命が芽吹き始める。その姿は、映画をご覧になってください。感動的です。

 覗き窓は、直径10センチ余、厚さ10センチ位の 窓.jpgアクリル製。80度の熱で溶けてしまうはずだ。400度近い熱水孔の近くまで行って大丈夫なのだろうか?ご心配は無用。熱水が噴き出すあたりの海水温は、2~3度程度、熱水も10~20cmていど噴出孔から離れると、周りの海水とほとんど同じ水温になってしまう。熱水が急激に上昇する真上でも、1メートルくらい距離を置けば、安全だそうだ。 

 実は、もっと危険なことがある。海水を出し入れしてアルビン号の浮力を調整するバラストタンクに高濃度の硫化水素などが混じった海水を吸い込むと、バラスとタンクが腐食する恐れがある。パイロットが気を使う点らしい。

溶岩床.JPG 上の写真は、溶岩流が固まった生々しい跡。枕状溶岩の一部である。表面が光っており、真新しさをうかがわせる。メキシコ沖、東太平洋海膨(rise)、通称9゜North(ナインノーズ)で2005年から2006年にかけて、海底火山の爆発=大規模な地殻変動→大規模溶岩流があった。この地殻変動が、本映画の「深海の楽園」の生と死、再生を決定づける自然現象である。

 この海域は、ウッズホール海洋研究所などが1990年代から長期間にわたって、定点観測をしていたところ。2003年には、1ダースもの地震計が、海底に設置されたばかりだった。まさにここで、地殻変動がおき、海底火山が噴火、大規模な溶岩流が海底に流れ出したのだ。溶岩は18キロにわたって流れ、15平方キロメートルを埋め尽くした。東京なら渋谷区、福岡市の中央区をすべて飲み込むような溶岩流だった。厚さは身の丈ほど、流量は2千万立方メートルに達した。

 この地殻変動が、海底に何をもたらしたのか?

  映画冒頭のタイトルバックをはじめ、深海底の映像の各所に、煙がたなびく場面が出てくる。海中に煙が流れる筈は無い。

 正体は、海底火山から出る熱水だ。熱水には硫化水素やメタン、二酸化炭素などの気体だけでなく、鉄、銅、亜鉛などの金属がが溶け込んでいる。これが、水温2、3度の海水触れて固まって、粒子になり、煙のように見えるというわけだ。煙の色は、成分や噴出する勢いによって、黒になったり、白になったり、透明だったりする。

チムニー.JPG この「煙」が堆積すると「煙突」になる。英語では「チムニー」、あるいはズバリ、「スモーカー」と呼ばれる。黒煙を吐く「煙突」は、ブラックスモーカーである。白い煙は、ホワイトスモーカーだ。「煙突」は、銅や亜鉛を含む硫化物からできている。1日に、30センチほど高くなるものもある。大きいものは数十メートルあるが、大抵は、大きくなると、自分の重さで壊れてしまうほどもろい。溶岩流が起きれば、ひとたまりも無く崩れてしまう。

doverl.jpg 左の写真は、シンディ・リー・バン・ドーバー (Cindy Lee Van Dover ) さん、アルビン号の歴代パイロット(40人足らず)の中で、ただ一人の女性パイロット。面識は、もちろん無いが、ブログに写真を使用したいと彼女にメールを送ったら、快く、OKして、この写真を送ってきてくれた。

 アルビン号のパイロットになる厳しさは、前に書いた。ヴァンドーバー博士は、現在、ノースカロライナ州のデューク大学海洋研究所の部長を務めている。彼女は幼い頃から、深海に憧れ、深海生物学者を目指して、憧れのウッズホールに職を得たあと、一念発起してパイロットを目指す。

 深海パイロットは、男の世界、アメリカでも、様々な障害があったようだ。彼女の動機は、パイロットになれば、いつも潜って深海を観察できるというもの。パイロットが研究に手を出してならないことは、不文律としてあったようだが・・・。

 彼女は、1990年から91年暮れまでの1年半に48回の潜航をして引退。深海のエビの背中に、光に反応する器官があるという発見をしたことで知られる。深海で熱水噴出孔があれば、そこから発せられる赤外線にエビが反応できるというわけだ。

 小柄なガンバリ屋。伝説の女性パイロット、深海海洋学者である。現在、次世代アルビン号の建設委員会の座長も勤めている。彼女の著作「深海の庭園」(草思社、西田美緒子訳、原題 "The Octopus's Garden" = The Beatles が、同名の曲を歌っている。しゃれてますね!)は、一読の価値あり。これを読むと、深海にはまってしまう。本は、アマゾンにストックがあります。

tw.JPG 1979年、メキシコ沖でアルビン号が水温380度の熱水噴出孔を見つけた際、その周辺に旺盛な生命活動を発見した。その中心にあったのが極彩色の巨大なチューブワーム。大きなものは全長2m、管の太さが直径10cmのものもあった。

 チューブワームの存在は、底引き網漁船が、網にチューブワームを引っ掛け、知られていた。しかし、海底で生息しているところを目視で確認したのは、アルビン号が初めてである。ウッズホールで、初めてチューブワームの群生の映像を、見せられたとき、これぞ、まさに、「深海の楽園」だと驚嘆した。

 白い管(チューブ)から、羽根飾りのような真っ赤なエラがのぞいている。エラが赤いのは、その中に、人間の赤血球にあるようなヘモグロビンが入っているからだ。チューブワームのヘモグロビンは、酸素と結合するだけではなく、驚くべきことに、熱水中の猛毒、硫化水素と結合して無毒化することができる。言ってみれば、スーパーヘモグロビンである。

 エラは管の中の本体につながっているが、この結合部分を長さ数センチの筋肉が覆っている。筋肉は、左右に開くことができ、これが羽織に似ていることから、和名では「ハオリムシ」と呼ばれる。

 白い管は、たんぱく質とカニの甲羅のようなキチン質でできていて、カバンの皮のような硬さがある。管の中にはソーセージのような本体があり、その中に、バクテリアが共生している。バクテリアは、チューブワームの重さの60%から90%に達する。バクテリアは硫化水素からエネルギーを作り出し、チューブワームに渡している。管の中に住むお返しに家賃を払っているようなものだ。

 チューブワームは、本映画の核心である。チューブワームの群生を、2Dで見ると気がつかないが、3Dで見ると、管の間におびただしい生き物が重なり合ってコロニーを形成していることが良く分かる。

ブラックスモーカー.JPG 熱水噴出孔、つまり深海底で熱水が噴き出す場所(=海底火山の噴火口)は、本作品の肝にあたる重要なキーワードだ。深海では、この熱水噴出孔が、地表や浅い海で生命を支える「太陽」に代わる生命システムの中心だからである。

 大戦後、間もない1946年、紅海で水温が高い場所が見つかり、有機物による温度上昇の可能性がなかったことから、海底火山の存在が推定されていた。アルビン号の功績として真っ先に挙げられるのは、海底の熱水噴出孔の目視確認(=発見)だろう。

 1977年、アルビン号は、海底地質学者を乗せ、東太平洋のガラパゴス海嶺(かいれい=海底山脈)で海底の水温を調査していたところ、深海底で熱水が噴き出す場所を目視で確認した。アポロ11号の月着陸が1969年、それから実に8年も経っていた。人類の目は、古代から宇宙に注がれていたが、足元の海、とりわけ深海の探査はそれほど進んでいなかった証しですね。

 アルビン号が水深2500mのガラパゴス海嶺(Lift)のさけ目(Rift)で見つけた熱水噴出孔は、2年前から同深海で存在の可能性が指摘されていた。「熱水」と言っても、温度は17度。高温では無かったが、明らかにまわりの水温より十数度高かった。その2年後、メキシコ沖で本映画の現場近く(かなり離れているが)の海域、水深2600mで、水温380度という熱水噴出孔を見つけた。380度というと、沸点をはるかに超えている。深海の猛烈な水圧が、沸点を上げているのだ。

プロフィール

 
自称「国際紛争記者」。イランイラク戦争に始まり、ユーゴスラビア紛争・サラエボ包囲網、湾岸戦争と、臨んだ現場は、枚挙に暇がない。現役記者引退後は、ネット事業に取り組んだが、なぜか、今、3Dにはまっている。
アルビン号の深海探検 公式ホームページ